夫在宅ストレス症候群

まず「熟年離婚」「定年クライシス」「夫在宅ストレス症候群」について、それぞれ解説します。これらの言葉は、特に定年後の夫婦関係や個人の心の変化を表す際に用いられることが多いです。 

現役時代は多忙を極めて家でのんびり過ごすことになった定年後の夫婦のすれ違いについて、経済的問題以外の問題を調査したデータや報告は多数存在します。「熟年離婚」「定年クライシス」「夫在宅ストレス症候群」といった言葉が示すように、定年後の夫婦関係の変化は社会的な課題として認識されています。

以下に主な非経済的問題と、それに関する調査データから見えてくる傾向をまとめます。

1. 夫が家にいる時間の増加と家事・役割分担の問題

これが定年後の夫婦のすれ違いで最も多く挙げられる要因の一つです。

• 妻の負担増: 夫が定年退職し、日中ずっと家にいるようになることで、それまで妻が一人でこなしていた家事（特に昼食準備など）の負担が増え、妻のルーティンが崩れます。夫が「手伝う」という意識でいることも多く、「自分の領域を侵された」と感じる妻にストレスを与えます。（参考：OurAge「定年夫婦が発症する「妻のはやり病」「夫のはやり病」とは？」）

• 家事協力意識の差: 熟年離婚の原因としても、「家事への協力意識の差」が挙げられています。円満な夫婦は、夫が家事を「手伝う」のではなく、明確に分担している傾向があることが指摘されています。（参考：テンミニッツTV「定年後も「夫婦円満」でいるコツ」）

• 夫の「お客様」意識: 長年会社で「お客様」のように扱われてきた夫が、家庭でもその感覚を持ち続け、家事や家庭運営に無関心であると、妻の不満が募ります。

3. コミュニケーション不足と会話の質の変化

一緒にいる時間が増えても、必ずしも会話が増えるわけではありません。質の低い会話や、会話の頻度そのものの減少が問題になります。

• 会話時間の不足: 夫婦関係の満足度に関する調査では、仲良し夫婦と不仲夫婦の間で会話時間に2.6倍の差があるという結果が出ています。特に60代夫婦の満足度が低下している傾向が見られます。（参考：ハルメクホールディングス「【夫婦関係に関する調査 2024】」）

• 夫の「プライド」と「意地」: 夫が自分の主張が通らないと大声を出したり、妻が正しいと思っていても正論を歪めてまで「意地」と「プライド」を通そうとしたりする傾向が、夫婦関係をこじらせる原因となることがあります。（参考：OurAge「「定年クライシス」を招く、男の「心の生活習慣病」とは？」）

5. 身体的・精神的健康問題と介護

定年後の夫婦には、身体的な衰えや病気、それに伴う介護の問題も発生します。

• 介護疲れ: どちらか一方の介護が必要になった場合、介護する側の負担が心身ともに大きくなり、熟年離婚の原因となることがあります。「将来、この人の介護をしたくない」という理由で離婚を決意するケースもあります。（参考：アヴァンス法律事務所「熟年離婚の5つの原因やメリット・デメリット」）

• ストレスによる心身の不調: 夫の定年後に妻が「主人在宅ストレス症候群」を発症し、憂鬱、イライラ、吐き気、高血圧などの心身の不調を訴えるケースもあります。これは、夫との距離感やストレス発散の機会が不足していることが原因とされています。（参考：東洋経済オンライン「定年後､ギスギス夫婦とのびのび暮らす夫婦の差」）